ライスの鬼

ライスの鬼

「お、きたな」「ライスの鬼がきましたよ」とリーダー達が言った。この2人は(おそらく)ライスセンターにやってきた男をまとめ上げてきた剛の人で、私の中のスカウターによると戦闘能力が常人の4倍はある。

その2人が「ライスの鬼」と言うのだから、どんな人物なのだろう?と気になった。顔面はマサ斎藤のように凸凹で、筋肉が発達しすぎて腋が閉まらず、赤黒く焼けた肌に天女の入れ墨が掘ってあってもおかしくない。

が、私の想像とはかけ離れていて、ライスの鬼は実にほっそりとした中年男性だった。年は私と同じか、やや上の40代ぐらい。Sサイズのツナギに皮の軍手。「俺、あの人を片手でもちあげたことがあるんだよね」とリーダーが言った。

「ライスの、鬼・・・なんですか?」ときいた。そこで教えてもらったのは、ライスの鬼は「鬼のように強い」という意味ではなく、「鬼のようにライスに詳しい」人だった。

「たぶん、一番くわしくて、全部に精通しているんだろうな」とのこと。機械のトラブルには必ず呼ばれて、素早く正確に問題を発見し、解決して去っていくらしい。その精通っぷりは、本職の機械屋をしのぐのだ。事実、機械屋が「ははは、うごいてるの始めて見ましたよ、新しい機械に代えませんか?」というシロモノをあっさりと直していったのを見たことがある。

「おもしれえのはよ、あの人も職員じゃなくて、オレらと同じ期間雇用なんだってところよ」「職員なんかより、全然詳しいですよね」と笑う。「かっこいいですね」と私は言った。

もし、私が若かったら「なんて、不平等なんだ。ライスの鬼さんにはもっと賃金を支払うべき!」って思ったかもしれない。だけど、今は思わない。なぜなら、職員になったところで、いや、なってしまったら、鬼さんは鬼では無くなると思うのだ。

雑用や、会議、無駄に厳密な書類作成、意味不明な手続き仕事や、回避できない責任の負担、特徴を殺す人事交流、時間を削る酒、プライドの戦争と、妬み。職員になることで、やらされる不純な仕事達。そんなものは、私のような凡人のやるべきことなのだ。

専門知識を持った専門家が評価されないのは問題だけど、ライスセンターでは現場の裁量で厚遇されているような側面も見られる。人間味のある、あたたかな職場なのだ。

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